探究学習フィールドワーク:見えないものを見よう!
実施場所:中央⼤学杉並⾼等学校 多⽬的教室、新江ノ島⽔族館、藤沢市⽚瀬⻄海岸
実施期間:【事前授業】2024年1⽉10⽇(⽔)10:00〜11:20 【フィールドワーク】2024年1⽉11⽇(⽊)10:00〜12:15
フィールドワーク 「環境と観光コース」概要
杉並⾼等学校で3年間を通して取り組まれている『総合的な探究の時間』の最初のフィールドワーク。エネルギー問題やダイバーシティなど多様な課題設定の中で、『環境と観光コース』を選んだ40 名のフィールドワーク「海の環境」パートと事前学習を担当させていただきました。舞台は、観光地としても知られる「神奈川県 湘南海岸・江の島」。都市部に隣接し、年間を通し多くに観光客が訪れる湘南海岸は、近年地元産の「シラス」が⼈気を呼んでいるものの、海の中の⾃然はあまり知られておらず、そこにダイナミックな⼤⾃然があることを想像する⼈は少ないのが現状です。
そこで、江の島の対岸に位置し、周辺の海中世界を再現している『新江ノ島⽔族館』を活⽤して、⽬の前に広がる相模湾の⾃然を体感。⾝近にある海の世界を知るきっかけづくりと、その海で起きている「海洋プラスチックごみ、藻場枯れ、砂の流出等」の海洋環境問題の現状に触れるプログラムを提供しました。
- テーマ:海洋環境保全
- 学習目標:1)⽇本の海の多様性を認識する 2)都市部に隣接する「⾝近な海洋⾃然」の豊かさに気づく 3)海洋環境問題の現状(海洋プラスチックごみ・藻場枯れ等)を実感する
- 体験者:中央⼤学杉並⾼等学校1年⽣ 40名
- ファシリテート:⼈⾒道夫(ネイチャーガイド⾵の道)
活動の様子
事前学習
■⽇本の海の多様性を楽しく学ぶ 『餌の餌の餌は何?』
フィールドワークの前⽇に⾏った事前学習では、「湘南・江の島の海」の説明の他に、⽇本の海全体を扱った「⾷べる-⾷べられる」の関係をカードゲームで紹介。バラバラに配られた40枚のカードを頼りに仲間を探していくと…。アイスブレイクも兼ねたゲームが終わると、そこには⽇本の海で繰り広げられている多種多様な⾷物連鎖が浮かび上がってきました。ヒグマやシャチが関わる北の海から、亜熱帯のサンゴ礁の海まで、⽇本の“海”の⾃然の豊かさを実感してもらえたのではないかと思います。
■「江の島」の海にもやってくる 野⽣イルカの世界
残念ながら、フィールドワーク当⽇はイルカショーがお休みでしたが、⽔族館で活躍するイルカの仲間「ミナミハンドウイルカ」の体の仕組みと⽣態を紹介しました。伊⾖諸島御蔵島周辺で観察された野⽣イルカの海中映像も交え、野⽣下でのイルカの⾏動や⽣息環境を知ってもらうことで、⽔族館のイルカも本来は野⽣⽣物として⾝近に⽣きていることを、実感してもらえたのではないかと思います。
そして、紹介したイルカの仲間は、翌⽇訪れる湘南の海にもときどき現れます。明⽇はどんな海の⽣物に会えるのか…ちょっとワクワク感を盛り上げたところで、事前授業は終了。
フィールドワーク:新江ノ島水族館&海岸
真っ平な海⾯が広がる「海」ですが、浜辺から⽬視できる伊⾖⼤島との間には、じつは⽔深1,000mを超える深海があります。そして江の島の太平洋側は、波によって削られた海蝕棚と急激に深くなる岩礁の世界…。この、陸からはなかなか⾒ることができない海中世界が、⼿に取るように⾒られるのが「新江ノ島⽔族館」の⼤⽔槽です。
⼊り⼝の潮溜り(波打ち際)から、緩やかなスロープを下ると、海⾯に浮かんでいるように⾒える海の中、洞窟の中の⽣きものの様⼦、そして⽔深10数メートルから⽔⾯を⾒上げる海中世界…。その先には、深海に点在する光や酸素を必要としない「化学合成の⽣態系で⽣きる⽣物の世界」も。これらの世界が遥か遠い出来事ではなく、⽬の前の海で繰り広げられている、そう実感することから、海の環境保全を考えて欲しいと思っています。
■⾝近な浜辺の環境問題
⽔族館前の浜辺で、⼆つの課題を実施。
・⼀番⼩さなプラスチックを探そう!
・⽣物の痕跡を探そう!
⾏政による定期的な清掃活動が⾏われている⽔族館前の浜辺は、⼀⾒漂着物などないように⾒えます。けれどじっくり⾒てみると、砂の中に⼩さなプラスチック⽚。これも今世界中で問題になっている海洋プラスチックごみです。そして、数分の散策でも、⽣物の痕跡も⾒つけることができました。⾊鮮やかな⾙殻、⻑さ5cmを超えるカニのハサミ部分(脚)、そして河原の藪などに⽣息するネズミの仲間が⾷べたと思われるクルミの殻…。都市部に近い海岸も川や海流を通して、森や外洋、深海、そして⼈間の暮らしとつながっていることを、少し実感してもらえたと思います。
■⾒えない!海中の環境悪化
観光地である湘南海岸はきれいに清掃がされ、ごみも少なく⼤きな環境問題とは程遠いように思われます。ところが海の中を⾒ると、海底には多くのプラスチックごみ。そして海藻がなくなり、岩肌が⾒えています。陸からの砂の供給がなくなり海岸の砂が流されるために、定期的に運び込まれている川砂…。海の環境は陸上から⾒えにくいため、環境問題もまた、知らないうちに進⾏し、対応が遅れがちです。
まとめ
砂地や潮溜りでの「⾷べる/⾷べられない」ための⽣物の知恵の攻防、海藻の繁る藻場、海蝕で⽣まれた洞窟内、潮が当たる岩礁の海中世界、そして⽔深1,000mを超える光の届かない深海の世界。それが、都市部近郊の湘南の海の海⾯下にあることを知り、そこで起きている海洋プラスチックごみ、藻場枯れ、砂の流出と栄養塩の供給不⾜など、多様な環境問題を⾝近に感じるきっかけになってくれたら…。
短い体験時間での情報提供量の調整、⽔族館の展⽰の説明の仕⽅など、まだまだ改善点の多いプログラムでしたが、今後さらにブラッシュアップをして、都市部で暮らす⼈たちに「⾝近な海の⾃然と環境課題」を楽しく伝えられるプログラムに育てていきたいと思います。
授業内容の詳細・スケジュール等、より詳しい「実施レポート(PDF)」は、こちらからご覧いただけます。